福岡オンライン認証WGニューズレターVol.12

情報と貨幣

■貨幣とメッセージ

交通事故の死亡事故で加害者から被害者への賠償金の「相場」は、50万円だそうです。

「おたくのお子さんが亡くなったケースでは50万円になります」と言われて「なるほどそうですか」と納得する人はいないでしょう。では、この50万円という金額は、何を表しているのでしょうか? おそらくは、加害者への刑罰と被害者への謝罪を意味しているでのしょう。しかし、50万円というお金は実際にそのようなメッセージを伝えているでしょうか?

■貨幣は電子化できるのか?

「貨幣は元々情報だから電子化が可能である。未来の貨幣は電子マネーになる」という説明をときどき見かけます。

誤りではないのかもしれませんが、あまりにも抽象的で意味のある主張とは思えません。貨幣とはいったいどのような情報であり、貨幣の使用によってどのような情報が伝わるのかということを具体的に理解しなければ、未来の貨幣を理解することはできないはずです。

貨幣の電子化の意義を深く検討せずに、現行の通貨を電子化してみようという発想で作られた電子マネーは、すぐに多くの矛盾につきあたります。「実験」という言葉を言い訳に使うのを止めると、本当に現行の通貨を置き換えることができるような実用的な電子マネーのモデルを目指している実験はどれだけ存在しているのでしょうか?

■ローカルマネー

ちょっと奇妙な思考実験を行ってみましょう。円やドルのような法定通貨の代わりに、「罰金マネー」という特別な貨幣を考えてみます。そしてこの貨幣の単位を仮に「ギルト」と呼ぶことにします。

酔っぱらい運転で小学生をひき殺してしまった人には、50万円ではなく、50万ギルトの罰金を科せられるとしましょう。そしてギルトを稼ぐためには、交通事故被害者の役にたつような仕事をする必要があるとすると、50万ギルトの支払いという行為は、立派に「贖罪」というメッセージを伝えることになるでしょう。

このように用途や流通範囲が限定された貨幣を「ローカルマネー」と言います。広い意味では、プリペイドカードや郵便切手や航空会社のマイレージクーポンなどもローカルマネーと呼ぶことができますが、本質的な部分を見誤らないようにする必要があります。 ローカルマネーは、歴史的には多く存在しています。例えば慶長小判は、商品を売買するための貨幣ではなく、贈答専用で、実際に賄賂マネーのようなものだったそうです。

電子版の慶長小判を作ることはできないでしょうか?つまり、それを渡すことによって畏敬の念を持った贈与を行うという行為を意味するようなシステムです。電子マネーの可能性の一つは、貨幣にそこまでのメッセージ性を持たせることでしょう。

■古代の通貨普及活動

日本で始めての通貨は和同開珎でした。藤原不比等は、ほとんど貨幣経済を必要としていなかった当時の日本に強引に貨幣を流通させようとして様々な手段を講じました。このやり方はいまの電子マネーの普及の努力に似ています。

彼がとった方法は、自分のコミュニティである役人たちに貨幣を使わせるという方法でした。庸や調という物納の税が役人の給料でしたが、それを貨幣による給与に切り替えてしまいました。

当時の役人たちは困ったでしょうね。いま電子マネー実験を行っている銀行やメーカーの社員の給与を突然全て電子マネーにするとどうなるでしょう。

藤原不比等は、また蓄銭を行った者の官位をどんどん上げますという法律を作ってしまいました。このやり方にはいろいろな矛盾を含んでいましたが、貨幣経済の進行によって所持する貨幣の量を増やすことが仕事の目的になるという本質的なことを天才不比等は見抜いていたのかもしれません。

■資本制商品経済における貨幣

もやっとした概念ではなく、きちんと表記できるものだけを相手にすることが科学的な態度だと考える人々がいます。

ルベーグという数学者は「きちんと表記できるものだけを数学の対象だと考えると、10進数だけが本当の数だ」と言っています。2進数や16進数の「2」や「16」は10進数であって、これまで2進数や16進数で表すとみんな「10(いちぜろ)進数」になってしまうからです。

ルベーグが概念的な「数」というものを排除して10進数を第一義的なものとしたように、現在の資本制商品経済も抽象的な「価値」などというものを考えるのを止めて通貨の量を他のものには還元できない第一義的なものとしています。

ものは本来は使用価値や交換価値などを持っているはずですが、資本制商品経済では、刑罰や感謝の気持ちなどを含むあらゆるものを「商品」というカプセルにいれ、貨幣の量によってその価値を定めます。 古い世界では貨幣はものの価値を表現するためのメッセージ性を持ったメディアだったのですが、現代では貨幣自体が価値そのものであるという逆転がおきています。

貨幣という測定手段とその価値という実体が一致してきたために、マクロ経済学の数学的モデルと実際の経済現象はすばらしい精度で一致するようになってきました。そして、それとうらはらに政治や国家権力が放つメッセージが経済に与える影響力はどんどん小さくなっています。

■貨幣の電子化の可能性

資本制商品経済では貨幣によって測定できない価値や富は無視されます。美しい海や山は、リゾートとして開発されなければ、価値のあるものとして測定されません。

貨幣の量として測定された豊かさは一つの虚構ですが我々の生活に結びついた現実でもあります。抽象的な「豊かさ」という意味では、自然や人に恵まれた豊かな国があります。しかし、貨幣を少ししか持たない国はたくさんの貨幣を持つ国よりも弱く、経済力という不思議な力によって現実に支配を受けることになります。

自然を資源として消費し貨幣に換えることが人間の生活の豊かさと深刻に矛盾することが意識されつつあります。貨幣経済は本当は虚構の上のゲームに過ぎないということに、大抵の人はうすうす気づいています。しかし、だからと言って貨幣の使用を止めてしまうわけにはいきません。貨幣の使用は我々にとって紛れもない現実なのです。

しかしながら、貨幣そのものを現代の我々の要求にあうように改良するという可能性はあります。これまで計ることができなかった価値を計れるようになり、価値を測定する精度が上がれば、これまでは資本と考えられていなかったものが「資本」となる可能性があります。このような複雑な価値を測定する貨幣の実現にはコンピュータの利用が不可欠でしょう。電子マネーは、このような本質的に新しい貨幣を作る手段となる可能性を持っています。この新しい貨幣とは、システム化された高機能なローカルマネーであると言えるでしょう。

■資本としての貨幣

貨幣は、単に商品を購入するための手段ではなく、新たな価値を生み出すための資本でもあります。プリペイドカード型のローカルマネーは、資本にはなり得ないという意味で本当の貨幣とは言えません。他の形態の電子マネーも、商品を購入する手段だけではなく資本として使用できなければ本格的な貨幣とは呼べないでしょう。

我々の考えるローカルマネーは、新しい尺度によってこれまで測定されていなかった「資本」を発見する手段としては優れています。しかし、それを活用して新たな価値を生み出す方法についてはよくわかっていません。法定通貨や他のローカルマネーとの連携などが必要となることはおぼろげながらわかります。電子マネーが高性能の資本システムになるには、まだ多くの研究が必要です。

■ローカルマネーと信用

貨幣が流通するには、信用システムが必要です。法定通貨は大蔵省や日本銀行のような国家の機関が信用を与えています。

ローカルマネーの信用を担保する手段としてこれと同じモデルを使う方法があります。例えばマイクロソフトマネーであれば、マイクロソフトが信用を担保するというようにです。

ローカルマネーの本質がコミュニティの価値観やドメインの特性に基づくメッセージ性や資本のシステムにあるとすると、その信用システムは、ヒエラルキとして絶対的に突出した存在である必要はなく、むしろそのローカルマネーが通用しているコミュニティ自体が主体的に信用を担保できれば実用的に機能するはずです。

例えば、教育マネーというものがあり、それが生徒に与えられると、生徒は、学校の体育の授業の代わりにテニススクールやスイミングスクールやトレーニングジムを利用できるとか、英語の授業の代わりにネイティブの教師がそろった英会話スクールを利用できるといったことが可能であると考えてみましょう。このような教育マネーがあれば、各学校法人が全ての科目のための教師や設備を持つという不経済が避けられると考えられます。

この学校マネーの信用を担保するのは、必ずしも文部省である必要はありません。例えば、慶応大学のようにその教育マネーの使用の結果を単位として価値評価する機関でも十分に与信機関として機能するでしょう。また、この与信機関による価値評価は教育マネーの決済と強く関係することになるでしょう。

むしろ信用に関してより深刻な問題は、一つのローカルマネーシステムが閉じていずに、他のローカルマネーと交換を行い、インターネットワーキングさせたい場合です。 実際、現在全国で行われている電子マネー実験の中には、道路をはさんで反対側で行われている別の実験の電子マネーとでさえ全く相互運用性を欠いているということが当然のように発生しています。

私たちは、このようなインターネットワーキングを実現するためには、信用情報を伝播する機能を備えた広域的な認証基盤が不可欠であると考えています。ISITで提案している「3権威分立モデル」に基づく認証基盤は、まさにこのような用途に最適ではないかと考えています。もちろん、それが本当かどうか、これから実証実験を通じて検証してゆかなければなりません。

(山崎重一郎 ISIT)


報告

ISIT 認証局システムの現状

ISIT では昨年度から福岡オンライン認証 WG メンバーを中心にデジタル証明書の発行業務を行ってきました。昨年度はICAT (http://www. icat.or.jp)から 発行していただいた証明書による認証局とその2次認証局の2つの運用でしたが、 今年度よりその他の認証局による証明書発行サービスも行っております。それら の認証局の特徴と証明書の入手方法を簡単に説明させていただきます。

●ISIT CA

(C=JP,ST=Fukuoka,L=Fukuoka,O=ISIT) この認証局の証明書は http://public.momonet.k-isit.or.jp/cacerts/ self_signed_isit.cacert で公開されており、自己署名の形式を取っています。  証明書発行はすべて RA を介して行われます。3 権威分立モデルに基づいて実装 された RA パッケージにより、現在 9 つの RA が構築されています。RA にもより ますが、ISIT RA では証明書発行時に本人確認が可能な身分証明書の提示を必要と します。このような RA ごとの発行ポリシーはディレクトリに格納された URL で 公開する予定です。

●S/MIME 協議会向 CA

S/MIME メールクライアント用の証明書を発行する認証局です。日本語 S/MIME 協議会は S/MIME 対応メーラのベンダーが中心に集まり、相互接続の実験を行って います。ISIT ではこの S/MIME 協議会向けにメールによる証明書発行オートレス ポンダーのサービスを提供しています。 メーラで作成した証明書のリクエストをこのオートレスポンダー宛にメールで 送信すると自動で署名して証明書を返却します。その仕様については http://public.momonet.k-isit.or.jp/smime/ に記載されています。現在もこの 仕様についてのご意見をお待ちしております。またオートレスポンダーを利用して 下さるベンダーさんを募集しております。

●ISIT Demo Only CA

(C=JP,ST=Fukuoka,L=Fukuoka,O=ISIT)  その名の通りデモ用の認証局です。https://anago.momonet.k-isit.or.jp/ から 証明書が自動発行されています。この証明書を持つユーザは school@Home (https://www.momonet.k-isit.or.jp/school/) でのサービスを受けることもできます。

●Demo1 CA (C=JP,O=DemoCA1)

 これもデモ用の認証局ですが、発行時にディレクトリに登録されます。証明書発行 そのものに主眼を置いているのではなく、ディレクトリにさまざまな形式で格納して おくことで LDAP クライアントの動作確認をするための認証局です。  http://www.momonet.k-isit.or.jp/Dir/ から証明書が自動発行されています。

その他にも昨年度の運用を引き継ぎ IPRA - ICAT - ISIT という階層的な構造をもつ 認証局や楕円暗号方式を採用した証明書を発行する認証局の運用も考えております。

いずれも実験の範囲内で証明書を発行していますが、皆さんにさまざまな形で利用して いただくことで運用上の問題点を見い出し、それらを解決することでよりよい認証イン フラを構築したいと考えております。今後ともご協力をお願い致します。

(ISIT 須賀祐治)

インターネット認証技術入門 チュートリアル

福岡オンライン認証実験WGでは、新しい仲間を増やすことを目的として、認証技術に関するチュートリアルを行っています。講師は、福岡オンライン認証実験WGメンバーによるボランティアです。 現在、95名の申し込みがあり、毎回60名近い参加者があり大盛況です。また、開催場所も福岡オンライン認証実験WGのメンバーによって無償でご提供いただいています。

■日時:1998年6月9日〜7月28日(毎週火曜) 18時半〜20時

■参加費:無料

■申込み先:(財)九州システム情報技術研究所  第2研究室(担当 宮本) e-mail: miyamoto@k-isit.or.jp  FAX: 092-852-3465

■内容:

 基礎編

1回目(6月 9日):認証とは ・・・(ISITで開催)
		   妹尾啓志氏(シティアスコム)
2回目(6月16日):認証の原理・・(百道中学で開催)
		   久留吉伸氏(ジャストシステム)
3回目(6月23日):証明書の使い方(西南学院大で開催)
		   久留吉伸氏(ジャストシステム)
4回目(6月30日):証明書の管理・(富士通で開催)
		   久留吉伸氏(ジャストシステム)
システム構築編

1回目(7月 7日):SSLeayのインストールと使い方・・
			  (日立で開催)
		        河本泰幸氏(AXIES Network)
 2回目(7月14日):Apache+SSLによるサーバー構築・・
	                      花田正勝氏(システムラボラトリ)
3回目(7月21日):お店サーバーを作ってみよう・・・
		        花田正勝氏(システムラボラトリ)
4回目(7月28日):社内用の暗号化電子メール環境・・
		        永田智氏(九大病院)


問い合わせ先

九州システム情報技術研究所
〒814 福岡市早良区百道浜2-1-22 福岡SRPセンタービル
山崎重一郎 電子メール:tonton@k-isit.or.jp

TEL:092-852-3454
FAX:092-852-3465

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